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2019.06.16

Huawei独自OS登場の真実味と虚構。Androidベースならば可能性はあるかもしれない(本田雅一)

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米トランプ政権が発動した輸出規制。これに端を発した一連のHuawei関連のトピックスの中で、ここ2日ほど集中して話題に上っているのが"Huaweiが独自OSで勝負をかける"というものです。 この話そのものには根拠もあり、Huawei自身が各国で独自OSの商標権を取得しているほか、独自に開発したOSが高性能であることを訴求するコメントが中国メディアなどで取り上げられているためです。 関連記事: Huawei、今秋にもAndroid代替の独自OS採用製品を発売?スマホ以外にも搭載の可能性 報道の元を辿って行くと、出所は中国国内のメディアなどであるため、どこまで本当なのか、政治的な意図が背景にあるのでは? といろいろと懸念事項はあるのですが、なかなか興味深い議論なので少し掘り下げてみましょう。 Huawei独自OSの真実味(あるいは非現実性) Huawei CEOの任正非氏も、営業を続けるための代替策があると発言しており、中国中央政府や中国財界がHuawei支援をしているため、iOS、Androidに続く第三のモバイルOSが一夜にして爆誕! などという報道が(一部でですが)行われているようです。 しかし、いかに通信機器業界の巨人であるHuaweiとはいえ、一夜にしてモバイル端末向けのOSを誕生させることが可能なはずがありません。完全なる独自OSを別途開発していたという話にはリアリティがありません。 スマートフォン市場はすでに成熟期に入っています。端末だけでなく、各OS上で動作するアプリ(とその開発者)も流動性が低く、いくら中国市場が大きいとはいえ、それだけでグローバルで通用するプラットフォームにはならないでしょう。 そもそも市場が拡張を続けていた時期でさえ、Tizen、Firefox OS、Windows Mobileなど、第三のモバイルOSを目指したプラットフォームは死屍累々。対応アプリが提供される見込みはありません。 そもそも......ですが、独自OS開発だと騒いでいる筋は、モバイルOSがどれだけ複雑なプロセスを経てリリースされているのか、想像できていないのではないでしょうか。 あくまで"仮に"ですが、HuaweiがLinuxを基本に独自のチューニングを施したOSを開発していたとしましょう。自社開発SoCなどに絞り込めば、無線モデムや無線LAN、カメラなどの周辺デバイスはサポートできるかもしれません。しかし、世界中の主要な携帯電話事業者が提供するネットワークとの相互接続を確認できるでしょうか? アプリに関してはAndroidアプリのバイナリを動作させるJITコンパイラを載せて動かしてしまうという手があるかもしれませんけれど、たとえばGoogleがAndroidアプリのバイナリ形式を変更したとしたら、いきなり動かなくなる可能性もあります。 Androidの機能セットを、まるままソフトウェア的なインターフェイスだけ真似ることで、Androidアプリを独自OS向けにコンバートしやすくする、なんてことも不可能ではないでしょう(そういうアプローチのパソコン用互換環境なども、大昔にはありました)けれど、こちらもAndroidのバージョンアップに追従し続けるコストが高くつきすぎてしまいます。 ということで、あらためて"そりゃないだろう"と指摘するまでもなく、完全に独自のOSを普及させる目はないですし、おそらくHuawei自身、中国国内だけのために新OSを開発とは考えていないと思います。 では、根も葉もない噂かと言えば、そういうわけでもないのかもしれません。なぜなら、Huawei版OSの利用が中国国内で拡がっていくシナリオが考えられるためです。 独自OSの定義次第だけれど...... そもそもHuaweiへの輸出禁止令で使えなくなったのは、Googleが提供しているGMS(Google Mobile Service:Google PlayやGmailなどGoogle提供のサービスを利用するための拡張セット)と、定期的に提供されるセキュリティ対策パッチのみです。オープンソース版Androidへのアクセスは制限されていません。 各種報道でも、初期段階では独自OSという書き方がされていましたが、Huaweiが開発するとしたならば、オープンソース版Androidを基礎に独自のユーザーインターフェイスやアプリマーケット、各種サービスへの接続用アプリを盛り込んだカスタム版だと考えられます。 少しテクニカルな話に落ちていきますが、妄想膨らませながらそういう話を書く機会もあまりないので、少し掘り下げて書いてみましょう。 "OSとは何か"という捉えかた、概念をどこに持っていくかによって、このニュースは捉え方が変わってきます。 中国ではGoogleのサービスが提供されていないため、これまでもGMSが組み込まれていない独自開発版Androidが用いられていました。これはHuaweiに限った話ではありません。 OSの定義を「ハードウェアへの入出力」「ソフトウェアの実行管理」といった基本部分に加え、「アプリを動かす基本機能の集合体」、「ユーザーインターフェイスを構成する部品の集合体」だと捉えるなら、オープンソースのAndroidがあれば、Huaweiは独自にカスタム化したAndroidを開発できるでしょう。 独自OSはAndroidに比べて高性能という情報をHuaweiが発信していますが、ファイルシステムや内部でボトルネックとなっている部分のチューニング、あるいは特定ハードウェア(Huaweiは自分たちでSoCも設計していますからね)に特化する形で実装することにより、高性能化できる部分は少なくないでしょう。 実際、これまでもHuaweiは、オープンソース版AndroidのコミュニティにAndroidに対する改良をフィードバックしてきました。開発中のものを含め、オープンソース版Androidを構成する各部コンポーネントを置き換える様々な技術を持っていることは想像できるのではないでしょうか。 また、こんな話も出ています。TencentやXiaomiといった中国大手企業が、Huaweiの独自OS支持を表明しているそう。Huaweiがオープンソース版Androidにチューニングを施したうえで供給するならば、それをXiaomiのような端末メーカーが(中国市場向けに)採用する可能性は確かにあるかもしれないですね。 現時点では考えにくいでしょうけれど、Huaweiが独自SoCを端末内AIのライブラリや、内蔵ISP(イメージシグナルプロセッサ)を用いたカメラライブラリなどとセットで供給するくらい思い切ったことをすれば、採用するメーカーは現れると思います。 ちなみにIDCの調査では2018年のスマートフォン出荷台数は14.2億台。そのうち約4億台が中国国内で売れている端末でした。 この数字は2022年には5G端末による買い替えなどで15.7億台になると予想されていますが、中国国内市場は全体の3割を占めると予想されています。およそ4.7億台ですね。中国市場ではAppleから中国メーカーへの乗り換えが進行していますが、貿易摩擦による国民感情の変化を考慮すれば、Huaweiが独自に改良したAndroidがそれなりに浸透する可能性はある、ということだと思います。 "そうは言っても中国だけの話でしょう?"と言えない事情を考えてみる しかし、Huaweiが独自に大幅な改良をオープンソース版Androidに加えていくとしたら、そこにはいくつかの懸念点があります。 Huaweiに限らず、オープンソース版Androidを各社が改良し、独自のユーザーインターフェイスや機能などを付け加えて端末を開発していますが、大幅なアップデートがあると、独自開発部分はそれらに追従し続けることができなくなります。 先日、米国サンノゼにて行われたWWDC 2019でAppleは「Android 9は全体の10%にしか浸透していないが、iOS12は85%の端末にインストールされている」と優位性を語っていたように、多様なハードウェアに多様なバージョンのAndroidがインストールされ、アップデートされないまま併存していることは、Android勢の大きな悩みです。 なぜならOSのバージョンが揃っていて、はじめて機能させることができる仕掛けが多いから。とりわけ今の時代だとIoTデバイスとの連携などで、制約が出てくるでしょう。 Huaweiが独自改良したAndroidが、オープンソース版Androidの大幅アップデートに追従していくのではなく、そこから分岐して別の進化を目指し、それらを他の中国メーカーにも供給する......なんて方向に行き始めるとGoogleも困るでしょう。 現在は多様なアプリマーケットが混在している中国ですが、今回のHuawei制裁(その前にはZTEの制裁もありました)によって、スマートフォンを中心とする中国産業界がリスク回避のために"脱アメリカ依存"を進めなければリスクに対処できないと考えるようになれば、TencentやBaiduなどコンテンツ提供者側とも連携しながら、Google Playとは異なるアプリのエコシステムへと収斂する道も見えてきます。 まぁ、現時点ではすべて妄想かもしれませんが、オープンソース版Androidから分岐して中国バージョンのAndroid亜流版が生まれ、そこにアプリのエコシステムも追従してくると、今度は新興国市場へと拡がっていくこともあるのかもしれませんね。 GoogleはHuaweiを孤立させることで、セキュアではない端末が拡がってしまうことを懸念し、政府に働きかけを行っているようです。しかし、Huaweiだけでなく、他の中国メーカーも含めて脱アメリカ依存が進むことで、AndroidというOSのコントロールが効かなくなることが懸念としてあるのではないでしょうか。 Huawei以外の中国IT業界の巨人たちが、将来のシナリオをどう考え、どう行動するかによっては、決して非現実的な話ではありません。 Androidの分岐が妄想と言い切れない理由 大昔の話ですが「Windowsの価値の源泉がそのAPI(アプリがOSの機能を使うためのインターフェイス部分)と開発ツールにあるのなら、カーネル(ハードウェアを扱ったり、異なるソフトが同時に動く調停を行うための最小限のソフトウェア)はどれでも同じだよね」なんて話が、冗談でされていたことがありました。 Sun MicrosystemsはUnix上でWindowsアプリを動かすために、Windows APIをUnixの機能へと読み替えて動かすWABI(Windows Application Binary Interface)なんてものを出していましたね。互換性はいまひとつでしたが。 このときは経済合理性があまりなく、発展することはありませんでしたが、今回の話はかつての「API互換」ではなくAndroidそのものの分岐であるため、完全な互換性を保てます。 現在の米中の状況を考えると"Androidを分岐させる"方が、長い目で見た時のリスクヘッジにもなり、中国企業にとっては合理的という判断もあるでしょう。さらに、中国の中央政府が、そうした動きを後押しする法規制案などを作り始めたら、Androidコミュニティ全体にとってはマイナス要因となり得る可能性もあるかもしれません。 関連記事: GoogleのHuawei向けサポートが停止すると何が変わるのか? 発売済み端末への影響は?(本田雅一) 『Google抜き』のHUAWEIスマホはどうなる? 中国の事例から考えてみる(山谷剛史) どうなるファーウェイ、キャリアは発売延期の動き(石野純也)

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