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2016.11.11

実は日本以上に進んでいる? おとなり韓国のIT事情
「Korea IT EXPO 2016セミナーレポート」~前編~

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2016年11月8日(火)、グランドプリンスホテル新高輪において、おとなり韓国の行政機関である「未来創造科学部」の主催、そして“kotra”こと日韓両国間の貿易・投資振興をはかる韓国政府機関「大韓貿易投資振興公社」の主管による「Korea IT EXPO 2016」が開催された。

その中で「韓国 IT 最新動向」と題し、ITジャーナリストで東京大学情報学環特任助教、KDDI総研特別研究員など多数の肩書を持つ趙章恩(チョウ・チャンウン)氏によるセミナーがあった。趙氏は韓国IT情報の専門家として数々のセミナーやフォーラムに講師として参加している。

趙氏の解説は「韓国は今」をテーマに、現在の韓国におけるIT事情を余すことなく伝える内容になっていた。かなりのボリュームとなってしまったので、前編・後編に分けてお伝えしよう。

ブロードバンド化が早かった韓国

ブロードバンドという言葉が使い古されるようになって久しいが、世界的に見て最も早い時期にxDSL回線を普及させ、高速なインターネット回線を広めたのが韓国である。1990年代後半から2000年にかけ、当時の韓国大統領だった金大中氏の下で「サイバーコリア21」計画が策定され、情報インフラの策定、ベンチャー企業の育成を行い、ブロードバンド回線を普及させると同時に国民へのパソコンの普及を積極的に進めていった。

その結果、2000年代には、ほとんどの家庭がインターネットに接続し、パソコンを使ってさまざまなサービスを享受できるまでに急速に発展した。電子政府などと呼ばれる行政における電子申請サービスなどの普及、申請できる内容も、日本を抜き世界随一と言っていいだろう。一方、わが国はブロードバンドの普及は立ち遅れた感があるが、現在ネット接続の回線速度(ギガビット回線等)では、世界随一の速度を誇る。

ただ、高速インターネット回線の普及が早かった分、各種サービスなどにおいて韓国のほうが日本より進んでいる部分もある。そうした点を趙氏は紹介した。

ITジャーナリスト/東京大学情報学環特任助教/KDDI総研特別研究員趙章恩(ちょう・ちゃんうん)氏

郵便局における格安SIM(MVNO 

日本では今年8月からIIJのMVNOである格安SIM「IIJmio」(回線はNTTドコモ)を郵便局で扱い始めた。おとなりの韓国では2013年9月から郵便局でのMVNO販売(以下、郵便局MVNO)をすでに開始しているそうだ。

なお韓国における郵便局MVNOは
1.安心して購入できる
2.毎月の基本料金が不要

という特徴があるとのことだ。

日本の郵便局は民営化されてしまったため現在では私企業だ。業績次第では郵便局NVNOサービスを簡単に切り捨てる可能性もある。一方韓国の郵便局は、現在でも公的な政府機関なので安定してサービス提供が続くことが期待できるという違いがある。これが安心につながっているわけだ。

次に基本料金だが、毎月基本料金を無料で使い続けることができる。たとえば、ただ電話を受けるだけであることの多い人、例えばお年寄りや子供などには、費用の面で非常に有利だ。

「Wi-Fiしか使わずに、キャリア回線を使ったデータ通信を使わないのに月々決まった基本料金が出ていくことがないので、青少年やお年寄りに非常に人気があります。そのおかげで韓国は、未成年者も、70代、80代を超えている年配のかたもスマートフォンを使うようになりました」(趙氏)。

気になるMVNOの端末だが、以前は中国メーカーの安価な機種ばっかりだったという。しかし最近では、サムスンやLG電子がインドなどの東南アジアの新興国で販売していた端末をMVNO向け端末として国内にも回すことができるようになったため、以前よりは性能の良い端末が使えるようになったそうだ。

日本より進んでいる韓国のスマートフォン決済

韓国のモバイル決済を見てみよう。日本でもプリペイド式のSuicaやEdy、nanacoがおサイフケータイに対応しており、さらにクレジットカードを登録して使うiDといった決済方法も普及している。さらにiPhone 7シリーズの登場で、アップルのApplePayのSuica対応、各種クレジットカード対応によって日本でもスマホ決済が本格的に利用できるようになった。

対して韓国では、日本での本格普及が始まる前からスマホにクレジットカードやモバイル決済専用カードの情報を登録して使用することが可能であったという。

韓国のスマホ決済の優れている点は、どこでも手軽に使えるところにあるという。日本のおサイフケータイでは店舗側は専用のFeliCaリーダーを据え付ける必要があるのに対して、韓国では既存のPOSが利用できる。

具体的には、カード情報をバーコード化したスマホの画面をPOSで読み取る方法、カードを読み取る部分にスマホを近づけるだけでカードと同様の決済ができる方法などが用意されている。

またスマホで使えるモバイル商品券というユニークなものも存在する。たとえば、夫の残業が決まった連絡を妻が受け、妻は夕食を用意する代わりに食べ物が買えるクーポンをモバイル商品券で送る。夫はコンビニでモバイル商品券を使って夕食と交換できる。夫の外食まで管理できるので家計を預かる妻にとって非常にありがたい仕組みであると言える。

日本でも最近、コンビニでスマホの画面に表示したバーコードをスキャンしてもらい、缶コーヒーやアイスクリームなどの商品と交換できるサービスが登場しているが、韓国は10年以上前から導入済で、最近は高額商品も扱えるようになってきたとのこと。

韓国のモバイル決済事情

無料Wi-Fiスポットを使ったデータ収集

韓国では、街の至るところで無料Wi-Fiが利用できるようになっているのだが、そこに無料Wi-Fiスポット提供者の戦略があると趙氏はいう。

たとえば、無料Wi-Fiに繋ぐためにはメルマガの登録が必要で、登録するとクーポンが貰える。Wi-Fi提供者の狙いは、メルマガへの登録によって登録ユーザーに送ったアンケートへの回答を集め、さまざまなデータを蓄積することにある。

この背景には、韓国でビッグデータに関する規制が緩和された点が挙げられる。韓国では、氏名や住所、電話番号のように個人が特定できる重要な情報以外であれば、本人の同意を得ずに集め、ビッグデータとして取り扱ってよいことになっている。

「30代の男性で、ソウルに住んでいる」くらいであれば、本人の同意を得ずに収集してよいのだ。無料Wi-Fiの提供者は今、こういった無料サービスの提供と引き換えに利用者のデータを集めることに必死になっているという。分析結果が大きなビジネスチャンスにつながる。日本ではこうしたことは、まだできてない。

変わりゆく韓国スマホアプリ

世界最大規模のスマホ売り上げを誇るメーカーを数社も抱えながら、スマホの自国内への普及では世界に遅れをとっていた韓国だが、先述した郵便局MVNOなどのおかげで、それを一気に取り戻し、今では人口の9割近くがスマートフォンを利用するようになった。スマホアプリの開発もスタートは遅れたものの、韓国のアプリ開発企業は現在、シリコンバレーや日本に本社を置くことを目指してアプリ開発を行っているとのこと。

韓国のアプリ開発会社は韓国だけでなく、世界のユーザーをターゲットに開発を進めている。そのよい例が自撮りアプリの「SNOW」だ。

同アプリは、韓国のNAVERが開発しており、自撮りの顔に特殊加工を施し、チャット時にスタンプを押せる。たとえば、自分の顔をイヌやウサギの顔に加工して、相手に送ることができる。そういった自撮り写真をTwitterなどで見かける人も多いだろう。

また全世界で5,000万人以上が使っているダイエットサポートアプリ「Moves」も、アメリカにいる韓国人が開発したものだそうだ。

中国では、「MoneyLocker」と呼ばれるスマホアプリが人気だ。26歳~35歳の一番購買力がある人たちに使われているアプリで、待ち受け画面に広告を表示する。ユーザーは広告を見ることで報酬が得られ、モバイル決済で使える仕組みだ。

放送業界にも大きな変化がある。日本のテレビ局では専用アプリを使うことで、自局のドラマをVODで1週間無料視聴できるが、韓国は1999年からドラマの再放送をVODで提供している。

最近では高画質が進んでおり、ほぼ4Kでドラマの再放送が見られるようになったという。またスマホアプリにスマートテレビとの連携機能が備わっており、テレビでVODを視聴しているときにスマートフォンに切り替えると、その切り替わったタイミング場面からの続きをスマホで見られる。

世界を見据えて開発される韓国製のスマホアプリ

デジタル教科書からスマート教室へ

米国ではデジタル教科書を使ったスマート教育が注目を集めているが、米国の数学のデジタル教材を開発したのは韓国のアプリケーション開発会社だという。AI(人工知能)が搭載されており、子供たちが数学の問題を解いていく過程を記録して、そのデータをもとにそれぞれの子供に適した教え方を判断する。

韓国では2015年までにすべての小中校にデジタル教科書を導入する計画を進めてきており、現時点では若干遅れているが、それでも2018年までに全国の小中学校でデジタル教科書を完全導入する予定だ。そのデジタル教科書のひとつの取り組みが多言語化だとのこと(趙氏)。

国際結婚が増え、海外からの移民が労働力となっている韓国では、ベトナム語やインドネシア語などの各国の言葉で教科書を作る。デジタル教科書であれば、多言語化は紙の教科書に比べてあまりお金を掛けず実現できるというわけだ。あらゆる教科書を多言語化することで、移民の子供たちが不便なく韓国の学校に馴染めるようにすることで教育の不公平を作らないという取り組みである。

タブレットパソコンや電子黒板を使うスマート教室化も進んでおり障害者が通う特別学校にもすでに普及している。こういった点では、日本よりはるかに教育現場のスマート化が進んでいると言えるだろう。

教育にもデジタル化、スマート化の波が押し寄せており、2018年には完全デジタル化が完了する

韓国に押し寄せるIoTの波

さて韓国におけるIoTはどうだろう? IoTの一環として、Beacon(ビーコン)を使う室内ナビゲーションのサービスも増えてきたと趙氏。

新世界百貨店が運営している「SUPERSHOP」と呼ばれるショップでは、商品の代わりにRFIDのカードが並んでいる。カードを店舗内にあるモニターに近づけると、商品の説明が表示される仕組みだ。欲しいときは購入ボタンを押して購入。すると商品が宅配便で自宅に届く仕組みだ。店舗には在庫を置かずに済むため、それほど広い必要はない。これはオンラインとオフラインを繋げるひとつの試みでもあるとのこと。

特別展示会でおススメの商品のみを展示して、実際に顧客に触ってもらい購入したいと思ったら、その場でスマートフォンから注文するといったショップも増えているそうだ。

ショッピングセンターでは、先述したビーコンを使って顧客たちの居場所を追跡しながら、顧客が通った近くの店舗の割引情報やクーポンをスマートフォンに送信するといったことを行っているという。これは日本でも、同じことを行っているので、理解しやすいだろう。

医療の現場で使うビーコン

病院がビーコンを導入した事例を紹介しよう。歴史の長い病院では、増改築を繰り返していくうちに病院内が迷路のように複雑になってしまい、目的の診察室の場所がわかりづらくなってしまうという。

そのため韓国の病院ではビーコンと病院専用アプリを開発したという。患者さんがアプリを使うと、予約情報が表示される。何番目の患者であるのか、受付に行った後、何番診察室に行けばよいのか、待ち時間は何分かなど、事細かに案内が表示されるのだそうだ。これ、日本でもぜひとも導入してほしいサービスだ。

これを導入した病院では、患者たちは、受付の椅子に長時間座りモニターの前で自分の番号が表示されるのをただひたすら待つことがなくなったという。

カフェでお茶を飲んでいれば、もうすぐ診療の順番がくるので何番診察質まで来てくださいと、アプリが教えてくれるからだ。

このシステムはシニアの方にとくに好評で、病院内で迷わずに済むうえモバイル決済にまで対応した病院では、診療が終わったら処方箋をもらって、そのまま決済まで済ませられるため、支払いで名前を呼ばれるまで待たされることもなくなったそうである。定期的に通院する親を抱える身としては、なんともうらやましい限りだ。

このように病院でもIT化が進み、患者のためのサービスが充実してきた。ITと医療との組み合わせは、ただ病気を治すだけでなく、患者をどういう風におもてなしするかという面でも大変役に立っていると趙氏。

買い物だけでなく、医療の現場にもスマート化の波がやってきている

IT化が進む美容業界とアパレル業界

IT化の波は美容業界とアパレル業界にも押し寄せていると趙氏。韓国ソウル市内にある美容院の中には、サムスンのミラーディスプレイを導入した店舗があるそうだ。ミラーディスプレイは顧客へ髪型の提案をわかりやすくできるし、カット中はドラマの再放送を視聴することができる。

こういったミラーディスプレイはアパレル業界でも導入が始まっているとのことだ。冬になって着るコートが、太って見えるのではないかと姿を気にする女性は多い。試着した顧客がどう見えるのか、後ろや横から写真を撮って、それらをミラーディスプレイで表示すれば、自分自身で確認して購入できる安心感がある。

また最近、アバターを導入するお店も現れた。自分の体形を測定してアバターを作り、ミラーディスプレイに自分のアバターを表示させる。そのアバターに服を着せて、自分の体形に合っているかが確かめられるというわけだ。わざわざ着替える面倒がなく、バーチャルで試着ができる。

「日本のキャリアさんやベンダーさんの発表会では、我々はこれからこういうことをしますという動画などをよく見ます。韓国では、それがすでに現実になっていますが、あまり日本で知られていなくて非常に残念です。」と趙氏は語った。

ファッションや美容でもスマート化が進む。

韓国に広がるVRとホログラム

頭にかぶるヘッドマウントディスプレイを使ったVRも、韓国では着実に普及しつつあるという。たとえば、野球場でVRを使ってより楽しく臨場感があふれるコンテンツを楽しんだり、攻守交代の間にVRを使って野球チームを応援したり、ヘッドマウントディスプレイ(以下、HMD)をかぶって空中に浮かんでいるモノを見ながら楽しむといった光景が現実のものとなっている。

サムスンが経営する「エバーランド」という遊園地では、VRを使ったアトラクションが登場した。椅子に座ってVR対応HMDを装着すると「世界で一番危ないジェットコースター」に乗っている気分を味わえるもので、体験した人によると、本当に落ちてしまうのではないかと思えるほどのリアリティがあってかなり怖いそうだ。

このアトラクションを初めて経験しようと並んでいる人の中には、目の前で椅子に座っているだけなのにVRを体験してオーバーアクションで怖がっている人々を見て爆笑することもあるとのこと。そして自分の番になってVRを体験し、その怖さを実体験してしまうと、笑えなくなるという。

VRとバーチャルデパートで買い物

デパートにもVRの波は押し寄せている。現代百貨店が実証実験として導入したVRでは、ヘッドマウントディスプレイをかぶると、目の前にデパートの売り場が出てくる。陳列されている商品が小さくて見づらいときには、瞬きをすることで、商品を大きく表示できる。視線を右に移すと、右に歩いているように店内を移動できるなど、目の動きだけでさまざまな動作が可能だという。

VRと似たものにホログラムがあるが、韓国では「Klive」と呼ばれるホログラム劇場がソウル市内にいくつかあるとのこと。

このホログラム劇場では、「BIGBANG」「東方神起」といった人気のK-POPアイドルたちのライブ映像を上映している。ホログラムによってアイドルと自分のツーショット合成写真を作るファンサービスは本物がその場にいるくらいリアルなので、中国や東南アジアから来たお客さんに人気があるそうだ。

VRやホログラムといった近未来の技術がすでに実生活に入り込んでいる。

趙氏の説明は、ここまででようやく半分ほど。この先さらに、次世代の携帯ネットワークやスマート家電、ロボット、そしてサイバーセキュリティなど続いていく。それらの詳細は後編で紹介しよう。

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