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イノベーション
2016.10.08

大辻雄介の「教育のIoT思議」 第1回:教育の未来はIoTにある。

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遠く隠岐から遠隔授業

はじめまして。隠岐諸島海士町に住んでいる大辻雄介と申します。海士町は「地方創生でがんばっている地域」としてメディアなどで取り上げられることが多いので、ご存知のかたもいらっしゃるかもしれませんが、連載の初回ということで私が住む隠岐島前(どうぜん)地域についてまずは簡単に紹介します。

隠岐諸島は島根県沖北方約50kmにある大小約180の島々です。そのうち有人島は隠岐の島/西ノ島/中ノ島/知夫里島の四島で、北側の隠岐の島を島後(どうご)、南側の残り三島を合わせて島前(どうぜん)と呼びます。

島前地域唯一の高校である、島根県立隠岐島前高校が廃校の危機に瀕したときに「島前高校魅力化プロジェクト(現 島前教育魅力化プロジェクト)」は始まりました。

「地域で地域を学ぶ」地域学・「キャリア教育」夢探究など特色あるカリキュラム編成、公立塾「隠岐國学習センター(おきのくにがくしゅうせんたー)」の創設、そして島留学と呼ばれる島外からの入学生を積極的に受け入れる体制を整えることで離島では異例の学級増。今では推薦入試の倍率で2倍を超える人気校になっています。

「魅力化プロジェクト」において私は3年前から「教育ICTディレクター」を担当しており、ICT活用を通して教育をより魅力的にしていくことに取り組んでいます。

ひとくちに「教育のICT活用」と言っても、その活用方法は千差万別で様々な方法が全世界で試されています。電子黒板、実物投影機、タブレットをつかった協調学習などなど…少し前には映像講義のKahn Academyが話題になりました。社会人向けだとTEDが有名ですね(講義と呼んでいいか難しいところですが)。

かく言う私自身も、遠く隠岐海士町から全国に住むベネッセ進研ゼミ会員に映像講義(インターネット生放送)を配信しており、受講者の学習スタイルだけでなく「教える側の働き方にも少しずつ変化が現れているな」と感じています。

ベネッセ進研ゼミ中学受験講座の映像講義「受験算数ウェブ授業」

ここ数年、映像講義を配信していてある変化に気が付きました。それは授業後Webアンケートにおいて「満足度」の数値が恒常的に上昇してきている、ということです。企業秘密の部分もあるので正確な数値は申し上げられませんが、満足度を5段階評価でとったところ、トップボックス(たいへん満足)をつける割合が2年前より5〜10%ぐらい上昇しています。

私は講師歴20年、映像講義を始めて10年になるベテランですから、授業自体が年々上手くなっているという実感はないのですが、生徒の満足度が年々上がってきているのです。

講師自身のスキルは何も向上していないにもかかわらず、受講者の満足度が高くなっているということは「受講者側の変容」が考えられます。いま私の映像講義を受けている生徒たちは小学4年生から6年生。生まれたときにはYouTube(2005年創設)があった、という世代なのです。

彼らは物心ついたときにはスマホというものが世の中にあり、親からのお下がりで旧機種のスマホを使いこなし、テレビを見るよりもインターネット動画を検索するイマドキの子どもたちです。そういう彼らだからこそ「映像講義への抵抗感」が年々薄れていってるのではないか、というのが私の仮説です。学習もオンデマンド時代への突入を迎えているといえます。

100年前と変わらない教室

一方で「教育現場のICT活用はなかなか進まない」「学校の教室は100年前と変わらない」などの批判も教育業界にはあります。確かに電子黒板は10年前には登場していましたが、「学校現場に定着した」とは言えない活用度に留まっています。

以前、ある教育ICT活用の勉強会において「電子黒板は黒板にできることは全部できる。黒板にできないこともできる」という言葉を聞きました。これは明確に嘘だと言えます。そもそもサイズが大きく異なります。

黒板のように十分な広さがあれば「左側の上段にずっと使う公式を書き置き、それを見ながら右側に計算問題を解いていく」ということができますが、電子黒板の広さでは教室の後ろまでちゃんと見渡せる文字の大きさで公式を「書き置く」ことは不可能です。また電子黒板は専用のペンの書き味の問題から走り書きでメモする、ということも得意ではありません。

だからといって私は電子黒板を否定するつもりはありません。それぞれの特性をよく理解した上で「使い分ける」ことが重要です。最近は教員研修の進んでいる地域では黒板のほか、電子黒板、実物投影機などをすべて教室の前に並べて器用に使い分けている先生も登場しています。

しかしここに「教育のICT活用」が進まない原因もあります。「使い分ける」ためにはそれぞれの機器類の適切な使い方を新たに覚える必要があり、導入コストがかかるということです。心理的な障壁もあるでしょう。

教員はアナログの「黒板とチョーク」、デジタルの「電子黒板と専用ペン」両方の使い方を学ばなくてはなりません。「だったら現状維持」ということでアナログの黒板ばかりを使います。医療現場で紙のカルテと電子カルテを併用しているところはないでしょう。企業でも資料作成はパソコンでするところばかりで、今時ペーパーで資料つくっていないでしょう。

そんな中、教育現場は未だに「デジタルとアナログの両方を使いこなす」ことを強いられており、負荷が増えるICT活用に教員の抵抗感があることは否めないのです。

現に上述した私が担当する遠隔授業のシステムは以下のようなもので、左からインタラクション用PC(チャット・選択肢ボタン操作)、実物投影機、配信用PCと3つの機器を同時に使いこなさなくてはなりません。

遠隔授業配信に必要な機器類

教育の未来はIoTにある

そんな中、教育のICT活用に光明を見出すとしたら、私はIoTに期待をしています。既存の教室にあるモノたちがインターネットにつながれば、教員も抵抗感なく使いこなすことができます。

モノ自体がインターフェイスとなりますから、電子黒板やタブレットPCと違い「新たに何かを覚える」というハードルが少し下がります。つまり今後IoTは教育のICT活用に非常に重要になっていくのです。

その一つの事例として海士町で導入しているSmoothSpaceという遠隔地とつなぐシステムがあります。このシステムは既存の遠隔授業のシステムとは大きく異なり教室(モノ)自体をインターネットでつなぐ仕組みとなっています。

そのため今までの教室同様の授業を行いやすく、教える人のハードルが低いので誰でも使いこなせるシステムになっています。心理的障壁を低下させるIoTが、教育のICT活用を推し進めることになるでしょう。
次回はこのシステムについて紹介します。
 

SmoothSpaceをつかった遠隔授業の様子

<プロフィール>

大辻雄介

大手進学塾・予備校に勤務したのち、ベネッセコーポレーションでICTを活用した教育の事業開発を担当。日本初の無料インターネット生放送授業を行い、当時最大15,000人が同時に受講した。その後、隠岐にある海士町へ移住し、隠岐國学習センターの副長として日々生徒の指導を行う傍ら、島のICT活用を推進している。海士町から離島中山間に遠隔授業を配信しており、リクルート「スタディサプリ」数学講師、ベネッセ「受験算数ウェブ授業」算数講師もつとめる。2016年度、島根県情報化戦略会議委員。

テレビ東京系列「クロスロード」2016年10月8日(土) 出演

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