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イノベーション
2016.08.29

人工知能は私たちを滅ぼすのか?
児玉哲彦氏に聞く。

『人工知能は私たちを滅ぼすのか 計算機が神になる100年の物語』(ダイヤモンド社)は、この春、発売されると同時に話題になった一冊だ。インターネットがいかに私たちの生活を変えてきたか、そして、機械と心を通わす未来が訪れるのか…著者である児玉哲彦さんに現在のトレンドを交え、インタビューを行った。

同書は、慶應義塾大学にてモバイル/IoTの研究に従事し、2010年に博士号を取得した児玉さんが自身の研究を総括し、満を持して発表した一冊だ。

2030年の世界を生きる女子大学生を主人公に描かれている本の中では、1人1台人工知能を搭載した端末を所持し、生活をサポートしてもらっている。例えば、端末との会話の中で道路状況を把握し、タクシーを呼んだり、電話を同時通訳したりと言った具合に。2030年の世界というだけあって、具体的に実現されている世界の想像がつくが、児玉さんが今一番革新的だと期待しているIoTとはなんだろうか。

未来に一番近い自動車

ここで挙げられたのは、シリコンバレーを拠点にバッテリー式電気自動車の開発と製造を行っている自動車メーカーの『テスラモーターズ』(以下、テスラ)。

日本でも大きな話題になっているため知っている人も多いだろう。テスラのCEOはイーロン・マスク。元はオンライン決算サービス『PayPal』(ペイパル)の役員でほかにも宇宙輸送ビジネス『スペースX』を立ち上げるなど、シリコンバレーの起業家の中でも特に注目されている人物だ。

そんな彼が力を入れるだけに注目を集めているテスラだが、車両はインターネットに常時接続し、アップデートも随時行われるというものでまさにIoTと言える。

「テスラは自動車を自動車として作っているんじゃなくて、ガジェットとして作っているんです。そのため既存の自動車との共通性よりも、スマートフォンとの共通性の方が多い。たまたまモーターと駆動系がついているだけのガジェットなんですね。

ソフトウェアをアップデートできて、自動操縦機能があって……。こういう未来になっていくんだな、というのが感じられる。また、どの視点でモノを作っているか、というのがよくわかりますよね。IoTはすべてパソコンの延長線上にあるんです。

パソコンの利用されるシチュエーションが増えたことで、スマートフォンやタブレットに変化したように、テスラも自動車が進化したのではなく、たまたま自動車の形になったという風に考えています。そしてIoTというのは単独のデバイスではダメなんです。インターネット経由でどういうサービスにつながるか、というのがキーワードですね」

ユーザーが欲しい機能を後からアップデートという形で追加できるテスラがもたらした「未来が来た!」というインパクトは大きい。では、これから訪れる未来はわくわくするものだけなのだろうか。これからの世界を語るのに避けては通れないのが人工知能だ。

モノが「心」を持つのではなく、人の愛着が「擬人化」させる

人工知能というとスティーヴン・スピルバーグ監督の作品『A.I.』(2001)を思い出す人が多いかもしれない。人間の代わりに人工知能を持つロボットたちが主役になった映画の中に、心を持つロボットとの交流にどこか怖さを覚えたのだが、児玉さんはロボットや人工知能が心を持つ必要がないと言う。

「あの映画のようなことは起こらないんじゃないでしょうか。もちろん技術的にロボットが人間と同じようになっていくというのは可能でしょうが、それをする必要がない、ということですね。効率の問題ですが、生活のサポートをしてもらったりするための技術なので、そこに感情はいらないということです」

また、ロボットが心を持つのではなく、利用者である私たちが「心があるように思ってしまう」のだと児玉さんは言う。

「ソニーが販売していた犬型ロボットの『AIBO』(アイボ)がいい例ですが、人は使っているうちに愛着を持ってしまいます。販売が終了し、2014年には修理サポートも終わってしまいましたが、今でもソニーのOBたちが修理を続けています。

これはアイボがただのおもちゃではなく、家族として受け入れられていることを象徴していますよね。向こうはただプログラムされた通り動いているにも関わらず、利用者がそこに感情を見出してしまう」これはおそらく日常的に、そして無意識のうちに誰もが大なり小なり行っていることだろう。

世界中でブームを巻き起こしている『ポケモンGO』も、お気に入りのモンスターを育てたり、パートナーとして一緒にバトルで戦っているがモンスターのレベルが上がったり進化したりすると嬉しくなり、バトルで傷つくと「もう戦わなくていいよ」とすら思ってしまう。これはそこにいるのがプログラムではなく、ポケモンだと考えているからだろう。

 

「そういう風にモノを擬人化させるというのは、特に日本人の特徴かもしれませんね。ソフトバンクの人型コミュニケーションロボット『ペッパー』もそうです。

自分で人のように立ち、会話をすることができる。海外のロボットの多くはその目的をいかに効率的に実現するかという点のみで作られているので、いわゆる人間タイプのロボットではありません」

端末の形が変わり、制限からの解放が起きる

では、児玉さんの思うこれからの未来は、どういう世界が広がっているのだろう。

「冒頭でお話した通り、今でも未来が来ているような新しいテクノロジーやサービスはたくさんあります。だけど、それぞれが独立していては意味がありません。すべてをひとつにまとめられるプラットフォームが必要になる。

何かひとつを便利に行えるサービスではなく、ひとつの端末ですべてを行えるたらそのサービスの勝ちですね。そのときに今と同じ端末の形では限界があります。スマートフォンはこれ以上大きくならないでしょう。タブレットがそれほど一般化しなかった理由と同じですね」

児玉さんいわく、性能を高めるためにスマートフォンの端末は大きくなってきたがこれが限界だという。そうすると、次は性能を高めるために端末は形を変える必要がある。

「例えば、家でやっていること、ネットでの買い物や検索が対話型の音声デバイスに変わったり、モバイルでやっていることがウェアラブルデバイスに変わっていくでしょう。シーン別で変化が起こってくるというのがはっきりしていますね。

目に見える、指でコントロールできる範囲だけではとてもやっていけない。スマートフォンを持たなくてもサービスにアテンションを向けることができるようになっていきます。ハブとして対話型の音声デバイスや拡張現実技術であるARの分野が伸びていきます。

実際に見える環境に情報が追加されていくので視野が無限大に広がっていきますよね。何かをする度にスマートフォンにアテンションを向ける必要がなくなるウェアラブルな端末は確実に広まります」。

今手にしている端末の枠を出て、自分のまわりで自在にテクノロジーを操れるようになるというわけだ。

「ちなみに、直近で絶対売れるデバイスはやはり『ポケモンGO』のプレイ補助アイテムでもある『ポケモンGOプラス』でしょうね。腕や胸ポケットにつけるデバイスで、これによってモンスターを捕まえるのも画面を見ずに行うことができるようになります。

サービスがしっかりしていれば、アップルが全力で作った『Apple Watch』よりも売れる。『ポケモンGO』は広い意味でのARサービスだと思うし、『ポケモンGOプラス』は広い意味でのウェアラブルデバイスだと言えます」

また、人の働き方も大きく変わってくるという。

「労働はどんどん機械が取って代わっていきます。会社や家庭の中にどんどんとテクノロジーが入っていき、身体を動かす労働は減っていくでしょう」

ETCが導入されてから、高速道路の料金所の窓口で働いていた人を見なくなった。もちろん、そのETCを管理するという仕事は増えたわけだが、あの窓口の人たちはどこへ行ったのだろう。

「仕事を失う人も増えるわけだから、資源の再分配を行っていかないといけないという新しい課題は増えますが、それでも機械が労働を担うという流れと向き合っていく必要があります」

しかし、人工知能が人間以上の可能性も持っているのも確かだ。東京大医科学研究所は昨年からIBMと共同でIBMの人工知能である「ワトソン」にがん研究に関連する論文を学習させ診断に役立たせるという臨床研究を行っている。

そして先日、医学論文2000万件以上を学習したワトソンが、患者の病名を突き止め治療に貢献したと発表された。医師の判断ではわからなかった白血病患者の病名を突き止めるのにかかった時間はなんと10分だったという。次々に発表されていく医学論文を人間が把握していくには限界があり、人工知能を使った治療は広がっていくとみられている。

IoTやAI、そしてロボット……確実に変わっていく社会とどう向き合っていくのか。ひとつだけ言えることは、人間を超える判断力を持つAIやロボットなどを恐れるのではなく、活用するという意識を持つということ。IoTも同じで、その活用方法を考えることこそが、今後の産業構造の変化や私たち生活をよりよく変えていく手段であるということだ。

 

<プロフィール>

児玉哲彦

1980年、東京に生まれる。父親のMIT留学に伴い、幼少時代をボストンで過ごす。10代からデジタルメディアの開発に取り組む。慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスにてモバイル/IoTの研究に従事、2010年に博士号(政策・メディア)取得。頓智ドット株式会社にて80万ダウンロード超のモバイル地域情報サービス「tab」の設計、フリービット株式会社にてモバイルキャリア「フリービットモバイル」(現トーンモバイル)のブランディングと製品設計に従事。2014年には株式会社アトモスデザインを立ち上げ、ロボット/AIを含むIT製品の設計と開発を支援。電通グループ/ソフトバンクグループのような大手からスタートアップまでを対象に幅広い事業に関わる。現在は外資系IT大手にて製品マネージャーを務める。

 

<書籍紹介>

『人工知能は私たちを滅ぼすのか 計算機が神になる100年の物語』
児玉哲彦 著定価:本体1,600円+税発行年月: 2016年3月 判型/造本:46並製頁数:328
ISBN:978-4-478-06809-0

内容紹介:
AIはどこから来て、何を変えるのか? ITの専門家がコンピューターの進化論から、この先必ず訪れる驚愕の世界を描く。福岡伸一氏推薦!「2045年、人工知能の発達は人間の手を離れ、独自の進化段階に入る。以降、人間はあらゆる問題から解放される。あなたは本書の最終章を受け入れられるだろうか?」

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